Book(Manga).「事故で失明し絶望した男がブラインドマラソンで再起『ましろ日(7巻 最終巻)』」

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 漫画「ましろ日」(原作・香川まさひと、原画・若狭星、小学館)は、仕事中にトラックにはねられ失明した自転車で運搬業をしていた山崎恭二と、広島で生きる仲間たちの生活を描いています。事故で両目を失明してしまった山崎は、保険金3000万円を受け取りますが、仕事、自信など全てを失ってしまいます。
 
 そんな山崎のもとに安芸信用金庫の加瀬ひかりが現れ、世話をするようになります。やがて、自分の部屋にいることさえ恐怖を感じていた山崎は、絶望感の中でひかりが訪ねてくることに、少しずつ生きがいのようなものを感じていきます。ひかりも小学生の頃に交通事故で両親を失っていました。
 

山崎はある日、視覚障碍者として走ることに目覚め、10キロの伴走にひかりを選びます。徐々に走ることに力を発揮してきた山崎はチームを組み本格的にマラソンに取り組み始めます。やがて、山崎にパラリンピック挑戦の話が舞い込みます。「ましろ日(7巻)」では、山崎を強化選手にすべく、世界一の伴走者を自負する中居が東京から、広島に住む山崎を訪ねます。
 不幸な事故で失明した山崎は一時期、人生に絶望しますが、走ることやブラインドマラソンを通じて希望を持つようになり、やがて希望は多くの仲間たちに広がっていきます。
 原爆が落とされた広島を背景に、そこに住む人たちの生活を通して、生きることについて考えさせられるヒューマンドラマです。

ランナーと伴走の信頼

「7巻(最終巻)」では、伴走者の中居が山崎と「防府マラソン」に出場します。上杉などのライバルをどうかわせるか。レースにはブラインドマラソン協会強化委員会の桜坂里子も応援と偵察に駆けつけます。しかし、強化委員会員たちの思惑とは裏腹に、山崎の心中は穏やかではありません。このレースでも山崎は伴走者と言い争いを始めます。もちろん、ランナーと伴走者の信頼関係がなければ、レースはスムーズには進みません。
 
 言い争いは初めてではありませんでした。以前のレースでは、伴走者に山崎を失明させた、トラック運転手の但馬がつきました。レース途中で山崎は、伴走者が自分をはねた運転手だということに気づき怒りをあらわにします。レースは途中で終わるものと思われましたが、必死で「ごめんなさい」と謝る但馬を山崎は許し「一緒に走ってほしい」と、今度は伴走を頼むのです(第6巻)。
 
 今回のレース「防府マラソン大会」では伴走者の中居が山崎をリードし、あくまで山崎に冷静にレースを走らせようと、ライバルの状況を説明しません。それが山崎を困惑させてしまうのです。「レースを楽しめない」山崎は、このまま中居と走り続けることに疑問を感じるようになります。
 

Commentブログ筆者

 人間の勇気と無限の可能性
 突然の事故や病気が原因で健康だった身体の機能がマヒして、それまで普通に生活できていた日常が真っ暗に変わってしまう・・・・・大変なことです。奇跡的に助かっても半身不随や、歩行困難など大きな身体機能の損失につながれば仕事はてきなくなり、その人の人生は終わったとしか言えなくなってしまいかねません。それ程に交通事故は危険なものです。
 
 最近はパラリンピックなども注目されるようになり、歩行という身体機能を失っても、車椅子生活になった人がバスケットで再起したり、手や足が不自由でも水泳で再起したり、片足がなくても幅跳びの選手として頑張ったりする人が増えています。本当にそのような選手たちを見ると、人間の勇気や可能性について考えさせられてしまいます。
 
どんなことがあっても幸せになる覚悟
「ましろ日」は事故で突然に失明した主人公の山崎が絶望しながらも、ある日、走ることに目覚め、ブラインドマラソンに参加することで自分に自信を取り戻し、再度、人生に挑む物語です。

現在、全国に視覚障害者ランナーは1000人いるといわれます。目の不自由なランナーが、伴走者に叱咤激励され強くなったり、伴走者がランナーに勇気づけられるケースは実際にもあるようですが、どちらも精神的、肉体的な強さがなければできないことです。そんな人たちを見ていると、ただ勇気づけられます。

また、「ましろ日」は広島を舞台にそこに生きる人々との交流を通して描かれているのも、大事なテーマの一つになっています。この地で原爆が落とされたという悲惨な出来事は、忘れることはできません。
 そして山崎にとっても、多くの仲間たちにとっても大事な恩師だったまさみ先生の言葉が胸に刻まれているのです。

「広島に住むには覚悟がいる。幸せになる覚悟よ・・それは、誰かのために生きることなんよ、幸せは一人でなるものじゃあないけぇ」のまさみ先生の言葉が示す通り、全編を通して各シーンの背景に原爆ドームが描かれている中で、広島が原爆落下の日からどう復興したのか、今まで人々がどんな気持ちで生活してきたのか、人にとって大切なものは何かを考えさせられる内容になっています。

関連本

「盲人ランナー」(上杉惇著 幻冬舎)

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