Book(Manga).ある名もなき女性の一代記、伊勢湾台風完結編 浦沢直樹「あさドラ!(2)」

「連続漫画小説 あさドラ!(2)」
(浦沢直樹著、小学館)

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 浦沢直樹先生の「連続漫画小説 あさドラ!」は「週刊ビックコミックスピリッツ」に名作「21世紀少年」以来、11年ぶりに連載を開始した漫画で、浅田アサという12歳の少女が主人公です。このほど第2巻が発売されました。
「連続漫画小説 あさドラ(1)」の冒頭は2020年の東京に災害が発生する衝撃的な幕開けから、1959年に名古屋を襲った伊勢湾台風の画面へと一転します。被害を受けたアサは、南方での戦争経験者で7人の乗組員を無事に故郷に運ぶために、敵の攻撃を受けながらも陸上攻撃機(飛行機)を操縦する男に誘惑されてしまいます。男は日本に帰国後、仕事に失敗し路頭に迷っていたのです。しかし、そんな二人に容赦なく台風が襲ってきます。台風は東日本大震災を彷彿させるような絵として全編を通して描かれています。

連続漫画小説 あさドラ(2)」では男とアサが飛行機に乗りながら、雨水に沈んだ家の屋根から被災した住人たちに救援物資を届け続けます。浦沢先生はラジオ番組「純二と直樹」(文化放送、毎週日曜日 午後5時放送)の中で同巻の漫画について「実際に飛行機が飛んでいるように描きたかったから、飛行機のプロの方にもいろいろお話を聞いた」と話しています。漫画を実際に読みながら、読者が空を飛んでいるような感覚になるスピード感のある展開になっています。

また、第16話「ふりむかないで」では、漫画の中のあるシーンでザ・ピーナッツの歌をバックに女性がダンスする姿を描いていますが、設定曲を間違えて描いたことに締め切り日前の夜中の3時に気づき、描き直したというエピソードも披露しています。
 得体の知らない何かの爪痕が出てきたり、どこかミステリアスでスピード感のある漫画ですが、今後、アサがどのように成長していくかも注目されます。

 
 

どこか謎も多い作品

「アサドラ!(2)」の冒頭は探検隊が密林を探検しながら、ある木についた爪痕に驚愕するシーンからスタート、やがて、アサたちの被災した1964年の場面へと移ります。アサを誘惑した男は飛行機を操縦しながらも、やがて手に負った怪我が原因で操縦できなくなりアサに命じます。予想できない方向に物語が次々に展開するので、ドキドキ、ハラハラします。
 
 冒頭に出てくる謎の巨大生物の爪痕で思い出されるのは、4月末に発売された短編集「くしゃみ」で描かれた「怪獣王国」です。この漫画では巨大な怪獣が観光都市の東京を襲う内容が描かれていますが、やがて、この怪獣に毅然と立ち向かう者が現れます。
 この作品集には「DAMIYAN!」「月に向かって投げろ!」「親父衆」「いっつあびゅてぃふるでぃ」など8編が収録されています。「いっつあびゅてぃふるでぃ」はフォーク歌手で友人の遠藤賢司さんから聞いた話を漫画化しています。

なんと驚くことに、井上陽水さんや遠藤さんたちが無名時代に、地方の公演後に出かけたストリップ劇場でのエピソードがノスタルジックに描かれているのです。他に手塚治虫文化賞記念ムックに書いた作品など読み応えのある作品がラインナップされています。
 

強い女性を描き続ける

Commentブログ筆者
 浦沢先生は手塚治虫文化賞大賞を2度受賞している唯一の漫画家で、コミックスの売り上げが国内で1億2700万部以上を発行しています(ウイキペディア)。本業の漫画だけでなく、大学教授やラジオのDJからテレビ番組出演まで幅広く活躍しているので、漫画好きはもちろん、一般の人でも知らない人はいないのではないかと思います。
 
 2015年から17年まではNHKのEテレでは浦沢先生が、活躍中の漫画家にインタビューしながら、創作秘話や創作模様をドキュメントで放送する「漫勉」も放送されました。ご本人の特集「漫勉 浦沢直樹」では、本人が「BILLY BAT!」の最終回のネーム入れ、ペン入れまでが映像として公にされました。
 
 「BILLY BAT!」最後のシーンでは少年が本を高く掲げるシーンが3度の下書きを経て描かれる様子を放送しています。「本が本当に大事でした。図書館で小学生の女の子が本を開いて、驚いたり関心したりする様子を見たことがあります。本がその人を変えたり、救ったりすることはあると思います。そういうものを創りたいですね」と番組の中で、浦沢先生は、本を掲げる少年のコマについてのエピソードを話しています。
 
 浦沢作品には「MONSTER」「MASTERキートン」とは対照的に「Happy!」や「YAWARA!」など少女や女性を主人公にした漫画が多いのも特徴の一つです。「連続漫画小説 あさドラ!」も女性が主人公です。
 常に時代と呼応するテーマを設定してきた浦沢先生が新作で描くのは、災害に遭遇しながらも負けずに懸命に生きようとする女性の一代記です。今後の展開が楽しみな作品です。

関連本

「くしゃみ 浦沢直樹短編集」(小学館)

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