Book.「水道水がそのまま飲める世界9カ国の中の一つ 日本の『水道が危ない』」

「水道が危ない」
(菅沼栄一郎、菊池敏明著 朝日新聞出版)

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 過疎地での簡易水道の窮状、頻発する老朽水道菅漏水事故、水あまりで、もてあまされるダム、繰り返される赤字と急激に進む少子化で懸念される料金の値上げ・・・・・収入減少下になり迫られる大量の設備機器の更新投資など、現在、日本の水道事業を取り巻く環境は、世界のどの国も経験したことのない未曾有の危機を迎えています。
 
 世界中で「水道水をそのまま飲める」国は、ドイツ、デンマーク、ノルウェー、フィンランド、南アフリカ、アイスランド、オーストリア、アイルランド、そして日本の9カ国だけですが、水質基準も日本はトップクラスにあります。その日本の水道事業が今、どのように危機的状況にあり、どう改善していけばよいのか。
 普段、私たちが空気同様に水は水道管から出るのが当然と使用している「水道の真実」について報告したのが「水道が危ない」(菅沼栄一郎、菊池明敏著・朝日新聞出版)です。

 


著者のひとりである菊池明敏さんは岩手県北上市で水道事業の改革を推進してきた人物です。菊池さんは下水課に着任した2006年当時、年に6億円余の赤字を出してきた北上市の下水道事業を改革。水源や浄水場を大幅に減らすために花巻市と紫波町に統合を持ちかけ、14年に岩手中部水道企業団に統合。5浄水場を廃止し76憶円の投資を削減するなど尽力しました。

肩書は岩手中部水道企業団前局長で現在参与、総務省地方公営企業等経営アドバイザー。もう一人の著者である菅沼栄一郎さんは、朝日新聞地域報道部シニア記者で著書に「村が消えた―平成大合併とは何だったのか」等があります
 

「水道が危ない」には全国に先駆けて「水道事業の広域統合」を成し遂げている岩手中部水道企業団メンバーが、岩手県北上市の水道事業の改革経緯、今後の展開などについて話した座談会も収録しています。
 

設備費縮小で改善図る

世界の国々のどこも経験したことのない未曾有の危機的状況にある日本の水道環境・・・・現在、日本の水道事業はどんな状況なのでしょうか。戦後から近年までの第一世代の水道整備は、人口増加に伴う使用数量の増加に伴う増収に支えられ、膨大な水道インフラを整備してきた日本の水道事業ですが、このインフラが老朽化し、収入源になる筈の人口の急激な減少が危機的状況の根本にあります。
 
 加えて一人当たりの使用量の減少が定着し、中でも節水機器の機能向上で、風呂、洗濯機、食洗機、感知型節水栓、中水利用など節水機能が向上して、平成初期と比較し1~3割減少。特に著しいのがトイレ洗浄水で、初期タイプの洗浄水量は1回あたり約20リットルを使用していましたが、現在は4リットルを下回り、初期タイプと比較し7~8割減少しています。
 この状況に対処する手段はダウンサイジング(縮小)しかない。施設設備を削減しランニングコストを減少すれば利用効率が上がるのです。本書では具体的に水道事業、下水道事業、そして水道管路をどう改革しダウンサイジングすると、改善向上できるかがまとめられています。
 

漏水30%以上が49カ所

Comment ブログ筆者 
 今年の夏は台風による停電と断水で、電気や水など日常インフラの重要性を改めて認識している方は多いと思います。台風19号でも多くの方が停電、断水の被害にあいました。こと断水となると、夏の暑い中でお風呂もシャワーも使えず、トイレにも行けなくなるという状態が続いてしまいます。肉体的にはもちろん精神的にも疲労が重なるだけです。本当に日常の普通の生活を問題なくすごせることがいかに大事かを痛感します。
 
 ところで日本の水道の水質が世界中の中でも良質であることは多くの人が知ることだと思います。しかし、本書「水道が危ない」でも報告されていますが、水道水をそのまま飲める国は世界中で9カ国しかないことにも驚きました。
 
 世界中で日本のトイレ環境が際立って清潔であることも有名ですが、これも水道環境が整備されていることに関連があるのかも知れません。しかし、その貴重な日本の水道を取り巻く状況は、台風のような災害被害だけでなく、各地域の水道事業自体も危機的な状態にあるというのです。そのような状況の中で何よりも岩手県北上市の改革事例は注目すべき内容に間違いありません。また、全国の無効率(漏水)30%以上の49事業体もリストアップされており、水道管の老朽化改善も喫緊の課題となっていることが分かります。
 
 このように危機的な状況にある日本の水道事業ですが、もう一つ、注目されるのが水道事業の民営化の問題です。「日本が売られる」(堤未果著 幻冬舎)には、世界では何かと問題が多いことから、水道民営化から再公営化へ逆進している中で、日本が水道事業民営化を進行中だということをレポートしています。
 
 静岡県浜松市は2017年に下水道長期運営権を仏ヴェオリア社の日本法人と20年契約。大阪市が18年から市内全域の水道メーター検診・計量審査と水道料金徴収業務を、同社に委託。宮城県も20年から県内の下水道事業の運営権を民間企業に渡す方針でいるといいます。さまざまな変革に迫られている水道事業ですが、今後の全国の展開が注目されます。

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